カウンセリングルームながまち 室長 精神保健福祉士 樋口明夫
1.フィンランド発の対話実践 その始まりと実績
近年わが国でも関心が高まっている「オープンダイアローグ」は1980年代にフィンランドのケロプダス病院という精神科病院で、「クライアントのことを、スタッフだけで話すのをやめる」というシンプルな取り決めから始まりました。
「対話を重ねることで急性期の精神病性疾患を含む精神疾患が回復する」という、精神医療・精神保健福祉を少しでも学んだことのある人であれば到底受け入れられない「実績」をあげ、精神科領域のみならず、教育・司法など社会の様々な分野に影響を及ぼしつつあります。
皮肉なことですが、オープンダイアローグを取り入れたことで、ケロプダス病院の入院患者数は減少の一途をたどり、現在は総合病院と合併したそうです。病院での生活から、地域生活への移行により、精神疾患・精神障害と共に生きる人の生活の質が高まることはもちろん、医療経済的にもメリットが大きいものと思います。障害年金の受給率も低下したとのことですから、重症化せず、回復後に就労、自活した人も増えたことでしょう。
2.オープンダイアローグの7原則(前篇)
先日、本ブログにて、私の「オープンダイアローグとの出会い」について書かせていただきましたが、今回は、オープンダイアローグの基盤となる「オープンダイアローグの7原則」(前篇)をご紹介します。
オープンダイアローグには、「対話実践の技法」、「(精神医療の)サービス提供システム」、「(背景にある)世界観」の三つの側面があります。
このうち「サービス提供システム」は個人の努力で変革することが不可能ですから、「7原則」を学んだからと言って、すぐにオープンダイアローグの実践が可能になるわけではありません。また、「7原則」はマニュアルではないため、「この通りにすればできる」みたいな簡単なものでもありません。
しかしながら、この「7原則」には、対人支援の現場で大切にしなければならないこと、目指していかなくてはならないことが、とても分かりやすい形で整理されており、目指すべき羅針盤のようなもの、と言えます。わかりやすい表現ではありますが、非常に奥が深く、「哲学的」とも言える内容が含まれています。精神医療・精神保健福祉・対人支援の現場のみならず、教育・司法・組織マネジメントなど、様々な分野への応用が期待されます。
(1)即時対応(Immediate help)必要に応じて直ちに対応する。
・・・初回の連絡があったときから、24時間以内に治療チームを立ち上げ、クライアントを含めたネットワークミーティングを行う。
わが国を含むほとんどの国で、システム的に難しいところがありますが、できるだけ即時対応することを目指します。支援・ケアの質と共に、できるだけ早く支援・ケアにつなげることが大切です。
(2)社会的ネットワークの視点を持つ(A social networks perspective)クライアント、家族、つながりのある人々を皆、ミーティングに招く
・・・つながりのある人とは、友人・知人・関係機関の担当者など(誰を招くかは本人の同意に基づく)。
相談機関等に寄せられる「問題」の多くは、クライアントを取り巻く人間関係の中で起きています。クライアント個人の「問題」のみに着目するのではなく、家族・友人・知人・関係機関等相互に影響しあう人間関係のネットワークの中で「問題」を見ていく視点(perspective)を大切にします。ソーシャルワーカーが昔から大切にしてきた視点ですが、これまで「つながりのある人々を皆、ミーティングに招く」ことまでは、我が国の対人支援の現場で徹底されていませんでした。
「まず目指すこと」として、クライアントと家族の話を別々の場で聞くことをやめる、大切なつながりのある人はなるべく招くように話し合う、ことが推奨されています。
(3)柔軟性と機動性(Flexibility and mobility)その時々のニーズに合わせて、どこででも、何にでも、柔軟に対応する
・・・個別の事情を考慮せずにスタッフや機関の都合に合わせた、一般的なプログラムは使わない。ニーズがあれば、自宅ででも、毎日でもミーティングを行う。
「まず目指すこと」として、今ある制度の中でできる工夫は何でも試す、または新しいサービスを作り出す、ことが推奨されています。
「毎日でもミーティングを行う」ことは、現在の我が国の対人支援の現場の実情に照らして、非現実的に感じられます。どこの現場でも人手が足りなくて困っていますから。
しかし、オープンダイアローグが行われているフィンランドのトルニオ市周辺(フィンランド北西部、かなりの「田舎」です)では、特にシステムが破綻することなく実践が行われ、成果を上げています。症状や問題の重症化を防ぐことができるから破綻しない、と現地のスタッフが話していたということです。
訪問先からオフィスに戻ったのち記録を書く、などしていていては、「毎日でも訪問する」ことはできないでしょう。オープンダイアローグの実践者は、「記録は書かない」と言います。クライアントのために真に必要なことと、そうでないことを取捨選択しているのだと思います。
本当に困難な状況にある人のところに毎日訪問して、質の高いネットワークミーティングを行うことができたら、回復へ向けた力強い後押しになることは間違いないと思います。
今回は、「オープンダイアローグの7原則」のうち、1~3までをご紹介しました。次回は4~7までをご紹介します。お読みいただきありがとうございました。
(本稿はオープンダイアローグネットワークジャパン(ODNJP)HP「オープンダイアローグへの道しるべ~対話実践のガイドライン」を中心に、これまで読んできた図書、お聞きした講義を参考にしております)
(追記)8/18「オープンダイアローグの7原則について(その2)」をブログに投稿しました。あわせてお読みいただけるとありがたいです。

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