カウンセリングルームながまち 室長 精神保健福祉士 樋口明夫
「こころ医者になろう」
なだいなだ 氏
1.東日本大震災直後に聞いたなだいなだ先生のご講演
作家として、また我が国におけるアルコール依存症治療の先駆者のひとりとして高名な故なだいなだ先生のお話を直接お聞きする機会に恵まれたのは、東日本大震災(2011年3月11日)直後のことでした。
東北会病院のケースワーカーから連絡があり、なだいなだ先生の講演会を病院の職員向けに行うから、宮城県アディクション問題研究会(アディクション研、私はその頃も事務局を務めていました)の人たちにも案内したらよいのではないか、ということでした。病院の講堂で、病院の職員研修とアディクション研を合同で実施することとなりました。
時期は3月下旬か4月上旬頃。まだ東京からの新幹線は止まったままで、先生は長距離バスで仙台まで来てくださったのではないかと思います。津波被害を受けなかった仙台市中心部は比較的早く電気が復旧したので、もう電気は通じていましたが、会場が薄暗かったのは、節電が呼びかけられていたからだったでしょうか。
2.「こころ医者」になろう???
先生のご講演のテーマ「こころ医者になろう」を聞いたときは、今思おうと大変失礼なことですが、「こころ医者?なんかいかがわしい響きだな」、「そんなニセ医者になることを、本物の精神科医(しかも高名な)が一般人に勧めるの?」と驚きました。
しかし、先生の淡々とした語り口のお話を伺っているうちに、最初に感じた疑念は、「なるほど!そういうことなのか!」、「なんと深く、今回の大震災で傷ついた多くの人たちへのやさしさに満ちたお考えなのだろう」という感動に変わっていきました。
3.「こころ医者」とは?
東日本大震災では、甚大な津波被害を受けた沿岸部を中心に、多くの方が亡くなり、住まいを失いました。最愛の家族を失った方も多く、災害後の「こころのケア」の重要性が認識され始めた時期でしたが、精神科医、保健師、心理職、精神保健福祉士等、有資格のいわゆる「プロ」は、ニーズに対してその人数が絶対的に不足していることは明らかでした。ことに、精神科医だけが「こころ医者」だと考えると、「こころのケア」など不可能です。
しかし、先生は、我々の一人一人が震災で過酷な体験をした被災者に寄り添い、よき理解者となり、何よりもよき聴き手となる、すなわち「こころ医者」になることによって、被災者を支えることが大切、ということを説明されました。「こころ医者」になれたかはわかりませんが、先生のお話の趣旨は、その後の保健福祉センター、児童相談所職員としての被災者支援、被災者ではない様々な方の支援の中で、折に触れて思い返しながら、できるだけのことをやってきたところです。
4.「こころ医者講座」について
さて、なだいなだ先生は「こころ医者」について、著書「こころ医者講座」で詳しく解説されています。この本は、2006年に出版され、2009年にちくま文庫に一冊として文庫化されました。つまり、東日本大震災を受けて書かれたものではなく、それ以前から「こころ医者」になることの大切さを説かれていたことになります。「最近うつ病が増えた、とニュースで報じられます。」の一文から始まっており、うつ病などの精神疾患に悩む人の増加への対応として、多くの人が「こころ医者」になることを勧めることを考えるようになったということがわかります。
第一講「<こころ医者>とはなにか」に始まり、第二講「忍耐力があれば誰でもなれる」、第六講「正常より成長だ」、第八講「病名にこだわらない」、第十三講「なぜ<こころ医者>なのか」まで、先生の長年の臨床経験に裏打ちされた、非常に興味深い内容が、とても読みやすく、分かりやすい文体で書き記されていますので、多くの皆様にご一読をお勧めします。
お読みいただき、ありがとうございました。
(以下は数年前「こころ医者講座」を読んだ際付箋を付けた、心に残ったフレーズです)
「<こころ医者>は「正常」という考え方を越えなければいけません。それに代わるのが「成長」という考え方です。」
こころ医者講座(なだいなだ氏)
「病気を乗り越えてきた人は、その過程で、目に見えないところで、大きな成長を遂げています。
そこで病気にかかるまいとする努力、病気から回復しようとする努力をするからです。
病気は人生の危機ですが、成長の好機でもあるのです。」

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