ネガティブケイパビリティ表紙

帚木蓬生氏「ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力」を読みました

カウンセリングルームながまち 室長 精神保健福祉士 樋口明夫

1.帚木蓬生氏の著書「ネガティブ・ケイパビリティ」

 近年、「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉や、その重要性について、耳にすることが増えています。

 九州で診療をされているベテラン精神科医で、小説家としても数々の受賞歴がある帚木蓬生(ははきぎほうせい)氏の著書「ネガティブ・ケイパビリティ」は、「読まなくては」と思いながら読まずに過ごしていた気になる一冊でした。

 4月の宮城県アディクション問題研究会で、講師の東北会病院理事長石川達(とおる)先生が読むべき一冊としてお勧めされていたのを聞いて、遅ればせながら読ませていただき、感動しているところです。2017年に初版が発行され、私が購入したのは2023年発行の第19刷ですから、多くの人が注目して、お読みになっていることがわかります。

2.「ネガティブ・ケイパビリティ」とは?

 「ネガティブ・ケイパビリティ」とは、直訳すると「負の能力」ですが、「答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」、あるいは、「性急に証明や理由を求めずに、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいることができる能力」を意味するということです。

 近年の精神医学か心理学の分野で生み出された言葉なのかと思っていたのですが、最初にこの言葉を用いたのは今から200年前のイギリスの詩人ジョン・キーツであり、彼が二人の弟に宛てた手紙の中で一度だけ用いた言葉を、20世紀イギリスの精神分析医ウォルフレッド・ビオンが「発掘」し、講演や論文で紹介したということです。その後わが国へ帚木先生が紹介し、現在のこの言葉の広がりにつながっているとは驚きでした。

 著書「ネガティブ・ケイパビリティ」の冒頭には、経済的困窮の中でこの言葉を生み出したキーツの短い生涯(結核のため25歳で死亡)について紹介されています。キーツはシェイクスピアの作品群の偉大さを考察する中で、「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉・概念を生み出したということでした。

 結核、経済的困窮、父の事故死、母のアルコール依存症など、キーツの短い生涯は苦悩に満ちたものでした。また、「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉を発掘して広めたビオンも、第一次、第二次世界大戦で二度にわたり軍医として従軍し、過酷な体験を生き延びました。非常な困難の中から、それに耐えるためにこの言葉・概念が生み出され、奇跡的に受け継がれてきたということを知りました。

3.現代を生き延びるための知恵としての「ネガティブ・ケイパビリティ」

 我々が生きる21世紀の社会では多くのことがマニュアル化されて、なんでも検索すればわかってしまうような気になり、つい性急に「答え」を求める感覚に覆われています。職場や学校などにおいて求められるのも、「ポジティブ・ケイパビリティ」ともいうべき「即座に物事を解決できる」問題解決能力ばかりです。「早く、早く」、「より効率的に」とせかされ、そのとおりにできないと「取り残される」不安や寂しさ、孤立感に苦しむことになりがちです。

 しかし、帚木氏が言われるように、私たちの人生や社会には、処理しやすい、理解しやすい事柄はむしろ少なく、多くの人は、どうにもならないこと、思い通りにならないこと、に悩み、苦しさを感じています(私もその一人です)。そんな人生を生き抜くために「ネガティブ・ケイパビリティ」、すなわち「答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」を大切にしていきたいものです。

4.心に残る一冊

 帚木先生の著書「ネガティブ・ケイパビリティ」には、この概念と関連して、先生のクリニックのセラピー犬、医学教育や学校教育の問題、プラセボ(偽薬)効果のメカニズム、紫式部の源氏物語などさまざま興味深い事柄が記されており、心に残る一冊となりました。


 


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