「傷を愛せるか」表紙

宮地尚子氏の「傷を愛せるか」

1・宮地尚子氏の「傷を愛せるか」について

 宮地尚子(みやじなおこ)氏の著書「トラウマを愛せるか 増補新版」(ちくま文庫)を読みました。
 宮地氏は長年トラウマ被害者の治療に当たられてきた精神科医で、トラウマ理論やジェンダーの研究者として高名な方です。「トラウマを愛せるか」は2010年に刊行されたエッセイ集で、2022年に文庫版が刊行。私の本は文庫版の第15刷ですので、多くの人に読み継がれているということがわかります。
 「トラウマ(心の傷)」をめぐる様々な思いが書き留められており、特に留学先のボストン、ニューヨーク、ペルー、アルゼンチン、バリ島、沖縄の座間味島、金沢など、旅先で感じたことを綴った作品が印象に残りました。
 臨床と理論研究の両面で業績を積み重ねてこられた高名な先生ですが、とても正直にご自身の思いを語られていることに感銘を受けました。私はこれまでの自分の経験から、「本当に偉い人って、偉そうにしない」と感じてきましたが、宮地先生もそういうお一人だと感じます。

2.今年は終戦後80年の節目の年

 今年は太平洋戦争終戦後80年の節目の年で、本日6月23日は沖縄戦が終戦した「慰霊の日」にあたります。太平洋戦争に従軍し、戦後帰国された元兵士のPTSDの問題について新聞等で論じられることも多くなってきました。帰還兵のPTSDはもう何十年も前から深刻な問題だったのですが、語られるようになってきたのは最近です。社会として認めることができるようになるのにはそれほどの時間が必要ということなのでしょう。ウクライナやガザなど世界各地で傷つく人がこれ以上増えないよう事態の収束を強く願います。

3.回復支援のためのカウンセリングとソーシャルワーク

 トラウマは心の傷であると同時に体に刻み込まれた身体的記憶であると言われています。語らないで封じ込めておくことで、身体的・精神的、あるいは行動上の様々な問題につながることがありますが、話し手にとって話すこと自体ある意味危険を冒すことと言えます。「話して分かってもらえるだろうか。かえって傷つけられないだろうか。」と考えるのは自然なことです。聞き手もどのように聞くべきなのか、話し手の気持ちに配慮した、よき聞き手となる必要があります。
 この仙台も80年前には空襲により、14年前には東日本大震災により甚大な被害を受けました。見えづらい問題ですが、家庭内で繰り返される暴力により傷つく人、犯罪や事故の被害にあわれる方もいらっしゃいます。多くの被災者・被害者の皆様が孤立せず、少しでも気持ちが楽に、自分らしさを回復できることを願っておりますし、当<カウンセリングルームながまち>もカウンセリングとソーシャルワークにより役割を果たしてまいります。
 宮地先生の「傷を愛せるか」は、トラウマを受けた被害者へのあたたかい視点と、先生のみずみずしい感覚に満ちた名著であり、様々な被害を受けた方のお話を伺う際の姿勢を改めて考えさせていただきました。

カウンセリングルームながまち 室長 樋口明夫


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