やってみたくなるオープンダイアローグ表紙

オープンダイアローグの7原則について(その2)

カウンセリングルームながまち 室長 精神保健福祉士 樋口明夫

1.オープンダイアローグの7原則(後編)

 先日、本ブログに「オープンダイアローグの7原則(その1)」を投稿しました。今回は「その2」として、4つ目から7つ目の原則をご紹介します。

(4)責任を持つこと(Team’s responsibility)治療チームは必要な支援全体に責任をもって関わる

・・・他機関・他部門の支援が必要な時は、そこにクライアントを回すのではなく、その人たちを治療ミーティングに招いて、共に対話する。

(まず目指すこと)病棟、保健所、行政、学校など、他の期間が関わる場合も、治療チームが出かけて行って共に対話する。

 「治療チーム」とありますが、医療機関のスタッフだけでなく、広く対人支援に携わるスタッフ、と言い換えて考えたい原則です。どのような支援機関にも「できること、できないこと」、「得意なこと、そうでないこと」があります。何もかも一人の支援者、一つの機関が抱え込むのではなく、適切な人、機関につないで、「ネットワークで支援する」ことは大事ですが、支援機関相互の認識のずれや、連携の機能不全があると、ドロップアウトや当事者への不利益が起こってしまうでしょう。

 「責任を持つ」ことは、一見当たり前のことのように感じるかもしれません。しかしながら、責任を持つとはどう対応することなのか?よく考えると、人によって、所属機関によって感覚が異なりますし、対人支援の現場で、「丸投げされた」、「(他機関との、支援機関内の)連携がうまくいかない」などの「恨み節」を聞くことが珍しくないのも、「責任」の理解や感覚が人や機関によって異なることによるものと思います。

 「他機関・他部門の人を治療ミーティングに招いて共に対話する」ことで、当事者・ご家族を中心にお互いの認識や考え、方針を率直にすり合わせ、支援者による抱え込みや、支援の中断を防いでいくことが大切です。

(5)心理的連続性(Psychological continuity)クライアントをよく知っている同じ治療チームが、最初からずっと続けて対応する

・・・クライアントや家族、関係者のことをよく知っている人が、治療の全プロセスを通して治療ミーティングに参加する。

(まず目指すこと)異動等があっても、可能な限り誰か1人はチームに残って橋渡し役となる。
 
 担当者がしょっちゅう替わることが、クライアントにとってよくないのは自明なので、この原則は、従来から意識されていることです。あらためてはっきり言葉で言い表してもらった感じでしょうか。

 なるべく担当が替わるないように、また、やむを得ず替わる場合、いっぺんに替えず、最小限の変更とするよう配慮します。

(6)不確実性に耐える(Tolerance of uncertainty)答えのない不確かな状況に耐える。

・・・結論を急がない。すぐに解決したくなる気持ちを手放す。葛藤や相違があったとしても、その場にいる人々の多様な声を共存させ続ける。
 
 先日本ブログでご紹介した「中井久夫氏の精神的健康を維持するために」15項目の中に「即座に解決を求めないでいられる能力、未解決のまま保持できる能力」が挙げられていますが、同じ考えであることが興味深いです。中井先生が「兵庫精神医療」誌にこれをお書きになった1985年は、フィンランドのケロプダス病院でオープンダイアローグが始められた時期と同時期です。どちらかがどちらかを参考にしたとは考えられないので、西洋と東洋のそれぞれの片隅で、優れた実践家が、同じようなことを考えて表明していたということになります。

 結論を急がず、すぐ解決しようとする気持ちを手放して対話を続けること。効率至上主義の現代に対する異議申し立てのようにも感じられますが、実際には驚異的な治療実績をあげているのがとても興味深いです。

 哲学的とも言える奥が深い考え方で、簡単なことではないですが、大事にしていきたい原則です。

(7)対話主義(Dialogism)対話を続けることを目的とし、多様な声に耳を傾け続ける
・・・対話することは何かの手段ではなく、それ自体が目的であり、解決はその先に現れる。

 オープンダイアローグでは、調和のとれた「ハーモニー」、「シンフォニー」ではなく、「ポリフォニー」を重視します。多様な言葉が様々に鳴り響くイメージ。無理に同調しよう、させようとせず、それぞれがそれぞれの思いを発言すること、それに耳を傾け、応答し続けることを大切にします。

 オープンダイアローグの我が国への紹介者である斎藤環(たまき)氏は、先月お聞きした講義の中で「ハーモニーは同意の強制」と言われていて、聞いたときは笑ってしまいました。

 議論、説得、尋問、正論、アドバイスも対話を終わらせてしまうものとして、否定されます。

2.「対話することを目的とする対話」・・・ある一人暮らし高齢者との出会い

 「対話を続けていくことを目的とする対話」、初めて聞いたときは「そんな考え方があったんだ!」とびっくりしました。その頃、仙台市のある区で障害高齢課という課の課長をしていたのですが、窓口で「課長を出せ!」と大声で騒いでいる高齢者の方がいたので、面接室でお話を伺いました。その方は一人暮らしの寂しさと、高齢・病気による生活能力の低下による不安を訴え、「今後の身の振り方を課長からアドバイスしてほしい」と強く求めておられました。

 3週間に一度区役所に来てもらい話を伺う中で、「どうしたらいいんでしょうね?」などと返しながら、お話を聞いていると、「要は自分で考えろってことなんだな?」とご自分で結論を出し、納得していかれました。無理に結論を押し付けず、対話を続けるうちに問題が解消することって、ほんとにあるんだな、と身をもって体感させていただいたあの時の高齢者の方のことは今でもよく思い出します(お元気にしておられるでしょうか?)。

 斎藤環氏は「対話が続いていれば何とかなる、という治療者の楽観性が治療的」と言われています。クライアント様の課題解消のため、当カウンセリングルームでは、「対話主義」を大切にし、どんな時にも対話を続けていける「対話力」を磨いてまいります。

 最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

コメント

“オープンダイアローグの7原則について(その2)” への3件のフィードバック

  1. […] (追記)8/18「オープンダイアローグの7原則について(その2)」をブログに投稿しました。あわせてお読みいただけるとありがたいです。 […]

  2. […]  私は、診断にさほどこだわらず、対話を続けていくことを目的とした対話を続けていく、そうすることで問題の解消を目指すオープンダイアローグの「対話主義」の新しさと可能性に魅力を感じています。   オープンダイアローグについては、本ブログにてこれまで何回か投稿しておりますので、お読みいただけるとありがたいです(「オープンダイアローグとの出会い」、オープンダイアローグの7原則(その1)、(その2))。(写真はカウンセリングルームながまち前、大家さんが植えたヒガンバナ(9/29)) […]

  3. […] 能力、未解決のまま保持できる能力」は、以前本ブログでご紹介しました、オープンダイアローグ7つの基本原則の「不確実性への耐性」と同じ内容のことを言われているものと考えてい […]

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